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名古屋地方裁判所 昭和42年(ワ)2360号 判決 1968年7月03日

原告

八進タクシー株式会社

ほか一名

被告

株式会社奥田正男商店

主文

一、被告は、原告八進タクシー株式会社に対し九万四八〇〇円、原告河村唯美に対し四六万九二九円、および右各金員に対する昭和四二年二月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その一を被告の、各負担とする。

四、この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の申立

原告ら訴訟代理人は「被告は原告八進タクシー株式会社に対し四七万一〇〇〇円、原告河村唯美に対し九七万一九二九円およびこれらに対する昭和四二年二月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、

被告訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二、請求原因

原告ら訴訟代理人は次のように述べた。

「一、本件事故の発生

(一)  日時 昭和四二年二月二〇日午後一〇時頃

(二)  場所 名古屋市中村区太閤通り一丁目先路上

(三)  事故車 (1) 普通乗用自動車(名五く四七―二九号)

(2) 普通貨物自動車(名四ぬ二二―一八号)

(四)  運転者 (1) 原告河村唯美

(2) 萩原優(被告会社の雇用運転手)

(五)  事故の態様 萩原運転の(2)車が右路上を西進中南側より北側へ電車軌道を横断したため、東進中の(1)車と衝突し、同車を大破した。

(六)  傷害 右事故により原告河村唯美は入院三五日、全治八〇日を要する脳震盪(脳内出血の疑い)、前胸部挫傷を負つた。

二、帰責事由

(物損につき民法七一五条、人損につき自賠法三条)

被告の従業員であつた右萩原は飲酒し酩酊状態になり、正常な運転をすることができない状態にあつたにも拘らず、被告保有にかかる前記(2)車を運転し、突然道路中央にある電車軌道を北に越えて対向車道に暴走突入した過失により本件事故を発生させたのであるから、被告は物損につき萩原の使用者として、人損につき(2)車の運行供用者として賠償義務を負う。

三 損害

本件事故によつて原告らに生じた損害は次のとおりである。

(一)  原告河村唯美の損害合計九七万一九二九円

(1)  入院、治療代一四万六九二九円

(2)  休業による逸失利益一二万五〇〇〇円

原告河村は原告会社にタクシー運転手として勤務していたが、本件傷害事故によつて昭和四二年二月二一日から同年四月二七日までの六六日間休業したため、給料合計金一二万五〇〇〇円を取得できず、同額の損害を蒙つた。

(3)  慰藉料七〇万円

原告河村は右傷害治療のため三五日間日赤病院に入院したが今なお頭痛、めまいなどの後遺症に悩み、また本件事故の二週間後である昭和四二年三月三日に結婚式を挙げることとなつていたところ、右事故のため予定変更を余儀なくされ、その肉体的、精神的苦痛は多大である。従つて右苦痛に対する慰藉料は七〇万円を相当とする。

(二)  原告八進タクシー株式会社の損害合計四七万一〇〇〇円

(1)  自動車破壊損五四万五〇〇〇円

原告会社は前記(1)車を昭和四一年一〇月に六〇万円で購入したものであり、その新車同様の車を本件事故により修理不能な状態に大破されたので、右車両を五万五〇〇〇円で下取りに出し、改めて新車を購入したのであるから、原告会社はその差額金五四万五〇〇〇円の損害を蒙つた。

(2)  休車による逸失利益四一万六〇〇〇円

本件事故後、原告会社は被告に車両損害金の支払または修理を要求したが被告がこれに応じないまま一ケ月余りを経過したので止むなく新車購入手続をとつたが、この間昭和四二年二月二一日から同年四月一二日まで五二日間車両を営業の用に供することができなかつたため、一日平均八〇〇〇円の割合による合計四一万六〇〇〇円の得べかりし利益を失つた。

すなわち、原告会社は営業車一台により一月三三万円の収入を得ており、これについての経費(燃料費、修理費)は一月平均五万円であり、差引き一台一月二八万円の利益を挙げうべきものであつた。

(3)  弁護士費用二一万円

原告会社は被告が本件損害賠償義務を全面的に否定し、その支払請求に応じないため、原告訴訟代理人である弁護士富島照男に仮差押手続および本件訴訟手続を委任することを余儀なくされ、右代理人に対し左の弁護費用の支払を約し、うち(イ)の金員を支払つた。

(イ) 著手金六万円

(ロ) 成功報酬金一五万円

四、弁済と受領

原告会社は被告から昭和四二年九月一六日七〇万円の支払を受けた。

五、結論

よつて原告会社は被告に対し前記三、(二)の一一七万一〇〇〇円から前記四、の七〇万円を差引いた残額四七万一〇〇〇円、原告河村は前記三、(一)の九七万一九二九円、およびこれらに対する本件事故発生日である昭和四二年二月二〇日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

第三、被告の答弁

被告訴訟代理人は次のように述べた。

「一、請求原因第一項のうち、原告ら主張の日時場所において、被告会社の従業員であつた萩原優の運転する被告会社所有の自動車と原告河村唯美が運転する原告会社所有の自動車が衝突したことは認めるが、その余の事実は不知。

二、同第二項中、訴外萩原が被告会社の従業員であつたこと、被告が(2)車を自己のため運行の用に供していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

三、同第三項中、原告主張の日に被告が七〇万円を支払つたことは認めるが、その余の事実は争う。」

第四、証拠 〔略〕

理由

第一、本件事故の発生

原告ら主張の日時場所において本件事故が発生したことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、本件事故により原告河村が入院治療三五日を要する脳震盪、前胸部挫傷の傷害を負つたことが認められる。

第二、被告の責任原因

一、訴外萩原の過失

〔証拠略〕によると、次の事実が認められ、これを覆すべき証拠はない。

(一)  本件事故現場は道路中央に電車軌道があり、相当広い幅員(一方の通行路は自動車約一台半の幅員)の東西に通ずる道路上である。

(二)  萩原は当時相当程度の酒(日本酒三・四合)を飲んだ状態で(2)車を運転し、東から西に向け時速約六〇キロメートルで左側車道を進行中、従前の速度のまま中央電車軌道を横断し、東行車道に突入し、対向東進して来た原告河村運転の(1)車に自車前部を衝突させ、(1)車を大破し、同原告に傷害を与えた。

以上のように認められる。

(三)  自動車を運転する者は道路を横断、転回する場合には、あらかじめその手前から減速徐行し、安全を確認して事故の発生を未然に防止すべき注意義務がある。萩原は右認定のようにこれを怠り時速約六〇キロメートルの高速度のまま、安全の確認もせず反対車道に進入したものであり、この点の過失が本件事故の原因をなしているものといわなければならない。

二、被告と訴外萩原の関係

訴外萩原は、本件事故当時、被告会社の従業員であつて、被告会社の所有にかかる(2)車を運転中、本件事故を起したことは当事者間に争いがない。

三、そうすると被告会社は民法七一五条一項、自動車損害賠償保障法三条本文にもとづき、原告らの受けた後記損害の賠償義務を免れない。

第三、原告両名の損害

一、原告河村唯美の損害

(一)  入院、治療費一四万六九二九円

〔証拠略〕によると前示のように同原告は本件事故のため、脳震盪、前胸部挫傷の傷害を負い、当日から昭和四二年三月二六日まで三五日間名古屋第一赤十字病院に入院し、その間の入院治療代として同年四月二四日に一四万六九二九円を支払つたことが認められる。

(二)  休業による逸失利益一一万四〇〇〇円

原告河村が原告八進タクシー会社に運転手として勤務していたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると原告河村は右事故当時原告会社から一月平均約五七、〇〇〇円の給与を受けていたところ右入院治療のため約二月間欠勤し二ケ月分の給料を得ることができなかつたことが認められ、これを左右するにたりる証拠はない。

すなわち、原告河村は右二月分の給料額である一一万四〇〇〇円の損害を受けたことになる。

(三)  慰藉料二〇万円

〔証拠略〕によると、同原告は昭和四二年三月三日に結婚式を挙げることとなつていたところ本件事故のため同年秋まで予定変更を余儀なくされたことが認められ、この事実と前示受傷の部位、程度、その他本件弁論にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、原告河村の慰藉料は二〇万円を相当する。

二、原告八進タクシー株式会社の損害

(一)  自動車破壊損四四万五〇〇〇円

〔証拠略〕を総合すると、前記(1)車は昭和四一年一〇月に原告会社が代金六〇万円で購入した新車であつたこと、本件事故による(1)車の破損修理費用(部品代を含む)が四六万六一三〇円と見積られたので修理をあきらめて同車を五万五〇〇〇円で売却し、改めて新車を購入したことが認められ、右認定を覆すにたりる証拠はない。

ところで右(1)車がタクシー営業に使われていたことから見て、その減価償却期間は一年半と見るのが相当であり(鈴木証言)、これによりその事故当時の価額を算出すると五〇万円であつたというべきことになる。

そうすると他に特別の事情の認められない本件では、(1)車の事故当時における時価五〇万円から右売却価額を控除した四四万五〇〇〇円をもつて本件事故による(1)車破壊損と認めるのが相当である。

(二)  自動車使用不能による逸失利益二二万三〇〇〇円

(1) 〔証拠略〕によると、原告会社は自動車二二台を保有し、運転手四六名、従業員六名を使用してタクシー営業をしていること、本件事故による前記(1)車の破損のため五二日間、同車両による営業ができなかつたこと、原告河村と交代で右車両を使用する他の従業員に対しては、右休車の期間中も給与の支払をしていたこと、前記(1)車の修理費が四六万円余りかかり、それでも完全にはならず、新しく買いかえたほうが有利であることがおそくとも昭和四二年三月一〇日までには判明していたこと、ところが原告会社は被告に対し車両損害金の支払または修理を要求し被告との話し合いがつかないということで、新車買いかえないし修理をしないまま四月一〇日すぎまでの五二日を徒過したことが認められる。

そうすると、原告会社が前記事故の日から三月一〇日までの一月間右(1)車ないしこれに代る車を使えなかつたのは右事故の結果といえるが、これをこえる期間右(1)車ないしこれに代る車を使用しなかつたことによる原告会社の損失は右事故によつて生じたものとはなしがたい。

(2) そこで右一ケ月間の原告会社の免失利益を算定するに、〔証拠略〕によると本件事故前三ケ月の右(1)車を使用しての原告会社の一ケ月分の水揚高は、少くとも三三万円であつたことが認められる。

他方、自動車一台についての営業諸経費が(燃料費、修理費)五万円であることは原告会社の自認するところであり、また原告河村の一ケ月あたりの給料は前示のように、五七、〇〇〇円であつて、これは原告会社において支払を免れていること前認定のとおりである。

そうすると原告会社の得べかりし利益は前記三三万円から前記諸経費給料等一〇万七〇〇〇円を控除した金二二万三〇〇〇円となり、原告会社は同額の損害を受けたものというべきこととなる。

第四、弁護士費用

〔証拠略〕によると、本件事故後、被告が原告らに対し、本件事故により蒙つた損害を任意に賠償しなかつたので、昭和四二年八月一一日原告会社は名古屋弁護士会所属弁護士富島照男に対し、名古屋地方裁判所昭和四二年(ヨ)第一四一四号債権仮差押手続および本件訴の提起を委任し、その着手金として六万円、謝金として利益の一割を支払う旨約し、そのうち着手金六万円を支払つたこと、右仮差押は被告が本件賠償金中七〇万円を支払うことを条件に昭和四二年九月一六日被告との和解により解除されたことが認められる。右約定の趣旨は、原告会社が本件事故によつて受けた損害のうち判決で認定されるべき額の一割であつて、これは弁護士費用を含まないものの一割という趣旨であると解せられる。これらの事実と右仮差押手続および本件手続の難易、本訴請求の認容額、その他諸般の事情を考慮すると、原告会社は被告に対し前記原告会社の損害額の一割に相当する額と着手金六万円の合計一二万六八〇〇円を弁護士費用として請求しうるものというべきである。

第五、弁済

原告ら主張の日に、被告が七〇万円を原告会社に支払つたことは当事者間に争いがない。

第六、よつて原告らの本請求は、被告に対して原告河村は前記損害の合計額四六万九二九円、原告八進タクシー株式会社は前記損害の合計額七九万四八〇〇円から受領済みの七〇万円を控除した九万四八〇〇円および右各金員に対する本件事故発生日である昭和四二年二月二〇日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西川正世 磯部有宏 村出長生)

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